失敗を許容しない社会は「もったいない」/文・野口健

登山には、登頂成功か失敗かの2つの結果しかない。
僕は、エベレストの登頂にチャレンジした最初の2回は、いずれも失敗している。

1回目はコンディションや天候がなかなか回復せず、7900メートルの第3キャンプの手前で登頂を断念した。僕は途中で下山したが、このとき一緒に登っていた登山隊に多数の死者が出ている。

僕は夢破れて日本に帰国した。そして再挑戦。

しかし、2回目も登頂に失敗したものの、それでも標高8350メートルの地点までたどりついた。そのときは、頂上まであと500メートル。突然、天候が悪化。

岩かげから吹き荒れる吹雪を見ていたら、エベレストが「もう降りろ」と言っているような気がした。目の前に確実に「死」が立ちふさがっていることがわかった。くやしかったが、下山することにした。

冒険は生きて帰らなければ意味がない。だから、これは失敗ではなく、次へのステップと前向きに考えた。僕は自分自身の判断に納得して帰国したが、その考え方は日本ではなかなか受け入れられなかった。

日本は成功と失敗の間に幅がない。
登頂すれば成功で、登頂できずに下山すれば単純に失敗と見なされるのだ。

これは、日本だけの話というわけではなく、アジア系の社会は同じような風潮があるようだ。

悪天候が続くと、日本隊や韓国隊、中国隊の眉間にはシワが寄り、どこか重苦しいムードになる。見ていてよくわかる。無理に登頂して死ぬのもアジアの登山隊が多い。

その一方で、不景気な顔をしてもしょうがないとパーティーを始めるのは欧米隊、特に陽気なスペインやイタリア隊だ。

彼らは悪天候が続くと、テントからワインのコルクを抜く音が聞こえてくる。
それでも、天候が回復しないと「またね」と言ってさっさと帰国してしまう。
命はひとつしかないが、登頂するチャンスはいくらでもあるという考え方なのだ。

日本のメディアは登頂に成功した事実だけを報道するが、世界的なアルピニストのキャリアを見ても、撤退した事例はかなりある。優れたアルピニストは天候や体調の回復が思わしくないと、頭を切り替えてすぐに下山してしまう。そして、次のチャンスを待つ。

そうした事情で登頂をあきらめても、それが失敗と見なされない社会があるのだ。
しかし、日本は違う。

僕もエレベレストの2回目の失敗のときは、登山関係者やメディアにそうとう叩かれた。
こういう社会だと次のチャンスはなくなるし、人間だって萎縮してしまうだろう。
たった1回の失敗で有望な人材の芽を摘むことは「もったいない」ことだ。

登頂に成功しても、次は失敗して死んでしまうかもしれない。
成功も失敗も紙一重だ。成功したから良く、失敗したから悪いということでは決してないのだ。

僕は、成功のベースには失敗の経験があると思っている。
失敗したからといって、あきらめるのではなく、失敗が成功へのステップと考えられるような社会になると、さまざまな分野で優れた人材が出てくると思う。さらに、人間としての幅もこれまで以上に広がるはずだ。

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   by mottainai-lab | 2009-11-24 14:40 | 野口健 | Comments(0)
  
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