大変長い時間を空けてしまいました。
「このアニメを見ないともったいない・・・」のシリーズ三作目をご紹介してコメントを送ることを怠っていました。申し訳ありません。
作品は「老人と海」
アーネスト・ヘミングウェイの原作をアニメ化して様々な賞をとった作品です。
先ずびっくりさせてれるのは、その技法です。
透明なアクリル板に油絵具で絵を描き、その一部、場合によっては全てを指先で書き直しながら、コマ撮りするという方法です。紙に書いた動画や、切り紙などは全く使っていません。
ペトロフにとっては彼のアニメーションを作るにはこれ以上の手法はないといっています。幼い時からレンブラントの絵に魅せられた彼にとっては、油絵具による描写が全く自然なものとして感じられたのだと思います。特に水の表現にそのことが見てとれます。作品中の海の水の描写の写実性は、この技法ならではのものがあります。
彼自身も水の流動性・変化を表現するのにぴったりの技法だと言っています。Low Angleで海を見せる時の画面手前の水の流れ、櫂で切られる水の流れはコマ撮りとは思えぬリアルな感覚です。
セルアニメの場合、私たちは紙に水の一瞬一瞬の絵をフォルムとしてとらえて、セルにしてコマ撮りします。フォルムがその輪郭をキチッと型どった動画によって動かされます。どうしても流れるような動きには、そのフォルムがじゃまになります。
油絵具の場合、輪郭をあいまいに、にじませるようなもので撮られるぶん、流動間はセルアニメを越える写実性を持つことが出来るのです。
水を描くことが好きなペトロフにとっては、セルアニメや切り絵のようなキチッとしたフォルムを持つ絵のコマ撮りは技法上受け入れがたかったのだと思います。
それにしても私が好きなCut、7分過ぎ位のところで、老人のボートの上で一日が暮れて、次の朝、雲間から鳥の群れが現れて、その中の一羽だけが群れを離れてカメラに向かってくると、そのまま水面に足をつけるようにポチャンと水を揺らして水面近くを毛下を落としながら、飛ぶと最後に舟から降ろした釣糸(といっても太いロープのような)の上にのる鳥のCut。
カメラワークと水と鳥の動きの調和がみごとなCutです。
ところで、まだこの作品の画面のサイズについて触れていませんでした。この作品は東京の新宿高島屋のIMAX劇場で上映するために作られた大型画面の映像です。
通常の映画の場合35mm巾のフィルム(一コマあたり4つの穴-パーフォレーション)ですが、IMAXは70mm巾のフィルム(一コマあたり15のパーフォレーション)画面の露光面積は35mm画面の10倍くらいになります。こんな大きな画面でカメラの動くをつけるとその作業スペースは通常の劇場用のサイズをはるかに上回る大きな撮影台を必要とします。
水面に反射した光の照り返しが、老人や舟に映って揺れる描写。カジキがさめに襲われて身体をボロボロにされてしまうシーンのラストの赤い空に禍々(まがまが)しく流れる黒雲など、みごたえのある作品です。
前作「マーメイド」、最近作「春のめざめ」なども機会があったらぜひご覧ください。
長期間のご無沙汰、すみませんでした。
Y.Kuroda
◆老人と海
◆アレキサンドル・ペドロフ氏からのメッセージ