ビジュアル系ミュージシャンの天に向かって一直線に逆立った髪の毛。
今でこそテレビで当たり前のように流れている一場面だけれども、三十数年前は放送中にガムをかんでいただけで視聴者からクレームが押し寄せる、という時代だった。だから俺も、しょっちゅう局のお偉いさんにしかられてたね。
若さ故というか、何か気に入らないことがあったりすると態度や行動に出さずにはいられなかったし、目立ちたい、人と違うことをしたい、という気持ちも強かったからね。
ある時、現場のスタッフと意見がぶつかって腹の虫が治まらなかったんで、テレビカメラが自分の手元をアップにしたときに写るように、ちょっとアレな英語のフレーズをギターに書いておいたんだ。いたずら心でね。
当時はそんな言葉を誰も知らないから、そのまま気づかれずに放送されたんだけど、俺は心の中でほくそ笑んでいたよ。番組を見た外人には結構うけて、「お前、あれ最高だったよ!」なんて言われてた。
またある時は、ゴムぞうり姿で生放送に出たら「あれはけしからん」みたいな電話がジャンジャンかかってきて、局の人に呼び出されてしかられた。俺も反発して「どこにゴムぞうり禁止って書いてあんの?」なんて屁理屈をこねてたな。
そんなこんなで、当時の俺は言いたいことは言う、気に入らないことはしない、という若造だったので、それを見かねた某ラジオ放送局の社長が「そういう態度なら出す人出すぞ。覚悟しろよ。」と言って、俺をとあるところに連れて行った。
誰が出てくるのかと思ったら、ミュージシャンの間では親分的存在の大先輩の某氏が現れたんだ。その人は俺の言うことにも耳を傾けてくれて、それなりに理解もしてくれたんだけど、そのときに言われた言葉は今でも忘れられない。
「お前はスターになりたいのか?スターっていうのは「星」だ。現実に存在するけれども遠く手が届かないものだ。お客さんというのは、そういう偶像を求めているのだし、そういうところに夢を見ているんだ。お前がそうやって思うまま、感じるままを態度に表すのも悪いことじゃない。でもそれはある個人の実像でしかない。空に輝く星のように現実と幻想の姿を併せ持つ者、その間を上手に行き来できる者だけが、本物のスターになれるんだ。」
そのとき俺は目から鱗が落ちたような気がして、心の底からの感謝の気持ちで「ありがとうございました」と頭を下げた。プロとしてやっていく上での大事なことを学んだという気持ちだった。
今から思うと、その大先輩が語ってくれたのは、若造だった俺にとっては本当に「もったいないお言葉」だったのかもしれないね。