言葉を書いてくださいと言われたら、どんな言葉を書きますか?
山梨県の小学校で、縦4メートル、横1,5メートルくらいの紙に、
『祈りの木』を作成した。私がスミの線で描いた木に、子どもたちが彩色、
一人一人、言葉の書かれた葉っぱの絵を描いて貼り、1本の木を全員で
完成させるのだ。
子どもたちは、せっせと、好きな葉っぱを描き、言葉も書きあげた。
その葉っぱを、木の上に貼っていた時だ。灰色の葉っぱで、裏には何の言葉も
書かれていない葉っぱを発見した。
「この葉っぱは、誰の葉っぱ?」と聞くと、痩せた男の子がうなだれた
様子で進み出た。私は何気なく、「何か、地球や木にメッセージを書いて
あげてね」と言って、葉っぱを渡したが、結局その子は、時間内に葉っぱに
文字を書けなかった。担任の先生がその子に話をして欲しいと言う。
そこで、「なんで、灰色で、葉っぱを塗ったの?」と聞くと、
「僕は、木なんて大嫌いだ」と子どもは、答えた。
「そうか・・・正直でいいね。確かに、誰もが木や花を好きとは限らないよね。
灰色のままでいいから、何か書きたい言葉はないの?」と聞くと、ないと
首を振っている。「みんなで作る木だから、君の葉っぱがないと完成
出来ないよ、何でもいいから好きな言葉を書いておいてね」と話した。
次の日、その子は家で、新しい葉っぱを描いて持ってきたという。
その葉っぱは緑色で、裏には、自然と書かれていたという。その子の家庭
環境は複雑で、心に余裕などない生活を送っていることを、後で知った。
木も人間も生きる時間には限りがある。それなら自分が、まぶしく輝やく
葉っぱにならなきゃモッタイナイ。
灰色の葉っぱを描いたその子も、いつか、美しい葉っぱを描く日が来て欲しい
と思った。『祈りの木』は、小学校の踊り場に、今も飾られている。